自分だけの、夜でもやや明るい部屋

 

最近まで、夜はずっと部屋の電気を点けずに暮らしていた。部屋の間取りとしては1Kで、六畳もない部屋の、ドアを介してすぐ隣にキッチン、そこから玄関まで短い廊下があり、その廊下の照明だけ点けていた。なので部屋はもうほぼ暗闇といってもいいくらいで、ほとんど何も見えないような状態で生活していた。すこし精神的な部分で体調を崩していたので、明るい部屋だと落ち着かなかった。横になってばかりでまともに掃除が出来ていない部屋の、床に転がった細々したものや、部屋の隅のほこりが、明るい電球の光のもとに晒されるのが耐えられなかったんだろう。

食事をするときももちろん真っ暗なままだったから、たまに火の通り加減が不安な鶏肉をひとくちかじって、なんとなく生焼けのような気がするとスマホのライトで肉を照らし火が通っているか確認していた。かなり奇妙で滑稽だったと思う。

就職が決まり生活にリズムが出来始めると、なんとなく新しく照明器具を買おうと思った。入居時から備え付けの、日本のワンルームによくあるシーリングライトと適当に買ってきた高ワットの電球の組み合わせが悪いだけで、たとえば間接照明になるような小さなライトをいくつか買ってきてそれにオレンジ色に光る電球を合わせれば、肉に火が通っているか確認できるくらいの明るさにはなるだろう。考えてみれば簡単なのことなのに、思いつきもしなかった。ずっと生活というものを放棄していた。

さっそくいろいろとネットで検索して間接照明によさそうなものを探したけど、結局押上のニトリまで行ってひとつ2000円くらいのものを買った。宅配便というものが苦手なので、できれば店頭で買いたかったからだ。インダストリアルな感じの、セメント素材の小さな四角い土台に、好みの電球を裸のまま装着するタイプの照明。

2つ買って部屋においてみると、けっこういい感じになった。部屋をお洒落に見せたいならまずは照明!というようなネット記事をよく見かけるけど、確かに間接照明の威力はすごい。安アパートの、ベッドと机くらいしかない小さな部屋がそれっぽく見える。

かくして私は自分だけの、夜でもやや明るい部屋を手に入れた。

おもしろいことに、あれだけ明るいのは嫌だと思っていたのに、今度はもっと明るくしたくなってくる。もうひとつ照明を買って置こう、自分の気に入るものを、と思い始める。

ずっとセルフネグレクト状態だった。暗い部屋で横になってばかりで、掃除もできなかったし眠るのも下手くそだった。照明ひとつで急に生活がうまくなった気分だ。少しずつ生活を正していく。明るい部屋で、清潔なシーツで眠る。むかし、16歳の自分が日記にこう書いていた。

「夢は何ですかと聞かれた時、住んでみたい街に住んで広くなくていいので綺麗にしてある部屋で生活して、きちんと仕事をすることですって答えてみたい。ハードな夢だ。」

その通り、それはとてもハードなことなんだけど、23歳になった自分は、でもせめてこのくらいの夢は叶えてやらねばと思う。古くて汚い借家で暮らしながら、東京に出ることばかり夢見ていた16歳の自分のために。